稲光が見える

ふみなるのニュースレター第30号。「パラサイト 半地下の家族」のパク家の、悪気のない残酷さ。約1500字。
ふみなる 2021.10.03
誰でも

稲光が見える

 大型の台風16号が去った夜、川辺をランニングしていると、遠くに稲光が見えました。雷鳴は聞こえませんでしたから、遥か遠くの雷です。まだ彼の地では雨が降っているかもしれません。一方で自分がいる川辺は澄んだ夜空の下、秋の虫たちが控えめに鳴いていました。静かな夜です。しかし今もどこかで、大変な思いをしている人がいるかもしれない……。一瞬見えた稲光に、そんなことを思いました。

 死者26人、行方不明者1人を出した熱海市伊豆山の土石流災害から、今日(10月3日)でちょうど3ヶ月になります。一部に残る土砂は未だ撤去の見通しがつかず、12世帯の避難者の中には、故郷を離れる決断をした人もいるそうです(読売新聞10月3日版29面より)。

読売新聞10月3日版29面

読売新聞10月3日版29面

 私は静岡の実家に帰るたびに熱海を通りますが、電車から今も、土石流の痕跡が見て取れます。311の時に仙台の海辺で見た光景を(規模は違いますが)思い出します。どうやったらこれを元に戻せるのだろう、復旧できるのだろう、とても無理ではないか。そんな絶望感や無力感とともに。

 同時にその痕跡を目にしないと、身近なところで災害があったことさえ意識しない普段の自分に気づきます。ちょうど遠くの稲光を見て、そこで嵐が起こっているのだなと気づくように。

深刻さマウント

 自分が問題意識を持っている事柄Aを取り上げると、「いやBだって深刻だぞ」という横槍が飛んでくることがあります。もちろんBがどうでもいいわけではありません。ただ自分が置かれた立場や環境において、最も問題意識を抱くのが(抱かざるを得ないのが)Aである、ということだと思います。もし自分が言われるままBに取り組んだら、Aはどうなってしまうのでしょうか。それこそ「いやAだって深刻だぞ」という横槍が、別の方角から飛んできそうです。

 日本のみならず世界中で、日々様々な事件や事故、災害が起きています。本レターで取り上げた「小田急線刺傷事件」も既に1ヶ月以上前のことです。どれも看過できなかったり、痛ましかったり、腹立たしかったりします。が、一人でその全てを負うことはできませんし、把握することもできません(それこそ情報を得るだけで手一杯になってしまうでしょう)。

 そうでなくAに問題意識を持つ人はAに、Bに問題意識を持つ人はBに、それぞれ取り組むべきでないでしょうか。こっちの問題の方がより深刻だ、と深刻さマウントを取るより、自分がかかわれない問題にかかわってくれている人がいる、と考える方が有意義だと思います。

 それに「いやBだって深刻だぞ」と言う人にとって、詰まるところAはどうでもいいのではないでしょうか。自分が問題視していない問題を問題と見なしていないようにも思えます。ちょうど遠い空に走る雷を見て、花火みたいで綺麗だな、と能天気に思うように。

悪気のない残酷さ

 映画「パラサイト 半地下の家族」(2019年/ポン・ジュノ監督)は韓国の貧富の差をシニカルに描いた作品です。後半、大雨の中、山手のパク家の豪邸に寄生する主人公家族が密かに脱出するシーンがあります。彼らの後を追うように雨は豪邸の階段を流れ、坂を流れ、徐々に勢いを増し、下流の街を冠水させ、ついに主人公家族の半地下住宅を水没させます。しかし山手で大雨を眺めるパク家は呑気なもので、その息子は庭でテントを張っています。また着の身着のままで避難所にたどり着いた(貧困層の)ギジョンをパーティに誘うなど、(富裕層の)パク家の悪気のない残酷さが全編に散りばめられていて、他者の境遇や心境に思いを馳せない身勝手さが、これでもかと見せつけられます。

水浸しの半地下で諦めてタバコを吸うギジョン(映画「パラサイト 半地下の家族」より)

水浸しの半地下で諦めてタバコを吸うギジョン(映画「パラサイト 半地下の家族」より)

悪気のない残酷さを見せつけるパク夫妻(映画「パラサイト 半地下の家族」より)

悪気のない残酷さを見せつけるパク夫妻(映画「パラサイト 半地下の家族」より)

 それは昨今のキリスト教界隈で起こり続けている差別事件の、加害者やその周辺の人々の身勝手さに通じるものがあります。加害者が問題なのはもちろんですが、その周辺で黙っている人々、何もしない人々、喧嘩両成敗にしてしまう人々の問題も小さくありません。彼らは問題の構造を理解しないまま、悪気なく「まあお互い平和を保ちましょう」みたいなことを言います。それがどれだけ残酷なことか、考えもせずに。(ふみなる)

今回紹介した作品

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