神も悪魔も人間以下?

ふみなるのニュースレター第34号。神も悪魔も手玉に取る映画『コンスタンティン』は冒涜なのか。悪魔を簡単に退け、神を自動販売機のように扱うのは冒涜ではないのか。約1600字。
ふみなる 2021.10.31
誰でも

遅れてきた「ハロウィンは悪魔崇拝」説

 本日10月31日はハロウィン。コロナ禍で規模は縮小されているが一昨日から様々なイベントが催されていると聞く。仮装の準備を進める微笑ましいツイートもいくつか見た。それぞれ無理のない範囲で楽しんでほしいと思う。

 この時期にキリスト教界隈の一部を賑わすのは「ハロウィンは悪魔崇拝か否か」論争だ。私の認識ではハロウィンが問題視されるようになったのはここ10年程。「元サタニスト」なる某氏がYouTubeでハロウィンの「真実」を「暴露」したのがきっかけだ。

 某氏によると、仮装は人のアイデンティティを失わせる(クリスチャンとしてのアイデンティティも失わせる)行為であり、カボチャは悪魔の通り道になるという(それが本当ならスーパーのカボチャ売り場は大変なことになる)。それを「暴露」したことで、某氏自身「30日以内に殺す」と悪魔に宣告されたとか(その後、実際に殺害されたという話は聞いていない)。

 その話を本気で信じるクリスチャンがどれだけいたか分からないが、その頃から「ハロウィンは悪魔崇拝」という言説が福音派界隈で散見されるようになった。私が洗礼を受けた90年代前半はハロウィンは西欧の一習慣でしかなく、誰も言及していなかったから、これはごく新しい動きだろう。子どもたちがお化けなどの仮装をして近隣を巡るハロウィン行事(「トリック・オア・トリート」)がアメリカに定着したのは19世紀。それから約2世紀に渡ってこの「悪魔崇拝」が放置されてきたのが何故なのか、そのあたりは誰も説明してくれない。

神も悪魔も人間以下?

 ハロウィンの時期でなくても、キリスト教界隈では時々「悪魔の策略に騙されてはいけない」という趣旨の話が出る。現実に悪魔がいつもそこらをウロウロしていて、油断しているクリスチャンや信仰的に甘い(?)クリスチャンに食いつく、と信じているのだ。つい先日は、信者でない家族が自分の信仰を快く思ってくれない、と嘆くクリスチャンに対して「悪魔があなたの信仰を奪おうとしている」と助言(?)するケースを見た。家族の分断しか持たらさない助言だと思うのだが。

 私が所属していたペンテコステ派教会は「悪魔との戦い」を文字通り信じていた。日々悪魔を退ける祈りや宣言をし、時々大掛かりな祈祷イベントを催したりもした。その結果、私が得たのは「悪魔はいるかもしれないが、本当の悪魔は人間」という結論だったが。

 悪魔の存在を信じる教会やクリスチャンは、悪魔たちに種類や階級や支配地域があり、カッチリ組織化されている、と主張する。福音書に登場するレギオンやベルゼブルなどを引用するのが好きだ。また「悪魔祓い」を一躍有名にした映画『エクソシスト』(1974年/ウィリアム・フリードキン監督)のような現象は本当に起こると言う。

 映画『コンスタンティン』(2005年/フランシス・ローレンス監督)でも悪魔の世界は組織化されている。ルシファーを筆頭に、諸々の悪魔やチンピラ悪魔、ハーフ・ブリード(人間界で肉体を持って活動できる半悪魔)などがいる。が、ルシファーの子であるマモンが天使ガブリエルと組んで反逆を企てたり、その企てを察した神が陰でコンスタンティンを上手く立ち回らせたりと、あちらも人間界に劣らず政治的だ。

ティルダ・スウィントン演じる天使ガブリエル(映画『コンスタンティン』より)

ティルダ・スウィントン演じる天使ガブリエル(映画『コンスタンティン』より)

 本作の面白いのは、人間であるコンスタンティンが悪魔や天使たちよりも(なんなら神よりも)一枚上手な点だ。肺ガンで余命わずかなコンスタンティンは八方塞がりな状況だが、イザベルの代わりに地獄へ堕ちようとする「自己犠牲」が神に認められ、天国行きとなる。しかしどうしてもコンスタンティンの魂が欲しいルシファーは彼の肺ガンを取り除いて、地上での寿命を伸ばす。結果、一番得をしたのがコンスタンティンで、現状維持が神とルシファー、敗北したのがマモンとその一派、ということになる。人間が神も悪魔も手玉に取った形だ。

結果的に神も悪魔も手玉に取ったコンスタンティン(映画『コンスタンティン』より)

結果的に神も悪魔も手玉に取ったコンスタンティン(映画『コンスタンティン』より)

 本作を「神に対する冒涜」と取るクリスチャンもいるだろう。だが「悪魔の策略はこれこれだから祈って退けよう」とか、「こう祈れば神は祝福して下さる」とかと、日頃から悪魔のことも神のこともよく分かっている、こうすればいい、と豪語する姿勢の方が、よっぽど冒涜ではないだろうか。それは口で言わないだけで、神も悪魔も手玉に取ろうとすることなのだから。(ふみなる)

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