フェミサイドがフェミサイドだと認められない恐怖

ふみなるのニュースレター第22号。8月6日(金)夜に発生した小田急線刺傷事件とその後の影響。女性差別に端を発する明らかなフェミサイドが、そうと認められない恐怖。約1200字。
ふみなる 2021.08.08
誰でも

 8月6日(金)の夜、小田急線の車内で10名の男女が負傷する刺傷事件が起きました(4名が切り付けられて重軽傷を負い、6名が逃げる際の転倒などで負傷したそうです)。犯人の男の「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」「逃げ場がなくて大量に人を殺せるから電車を選んだ。誰でもよかった」という供述が翌日に広く報道されました。被害に遭われた方々の心身のすみやかな回復を願います。

 今回のレターは予定を変更して、この事件について書きます。

 本件は「通り魔」による「無差別」刺傷事件として一部で報じられましたが、「女性なら誰でもよかった」という動機の通り、無差別ではありません。女性差別・女性蔑視が前提にあった犯罪です。発生当日のTwitterトレンドに「小田急線」が上がり、翌日には「#StopFeminicides」「#幸せそうという理由で私たちを殺さないで」というハッシュタグが作られた通り、本件はフェミサイド(女性憎悪殺人、と訳すべきでしょうか)に当たります。

 事件翌日の7日、「電車に乗るのが怖い」という趣旨の女性のツイートを複数目にしました。女性という性別をターゲットにした事件が起きたのですから、女性が「被害に遭ったのは自分だったかも」「同じような被害に遭うかも」と恐怖するのは当然です。男性のわたしですら、昨日(7日)は「いきなり切り付けられたらどうしよう」と心配になって、必要以上に周囲を警戒してしまいました(ちなみに昨日はちょうど小田急線に乗りました)。女性はどれほど恐怖し、警戒したことでしょうか。これは事件の二次被害です。

 これだけの二次被害をもたらしているのですから、犯人の動機は詳細に報じるべきでなかったと思います。いたずらに恐怖を煽るだけです。

 もちろん報じられることで社会全体が問題意識を持ち、具体的な対策が早急に講じられるのならば、その報道にも価値があったかもしれません。しかしネットを見る限り、加害者の心情(非正規雇用の苦境など)に理解を示す言動が少なくありません。被害者(女性)より加害者(男性)に同情が寄せられるこの状況こそが、ジェンダー・ギャップ指数120位(2021年)という悲惨な結果の具体的な現れではないでしょうか(例えば加害者と被害者の性別が逆であったら、果たしてここまで同情が寄せられたでしょうか)。

 またネットでは「(今回の事件は)差別とは関係ない」という言動も複数見られます。しかしこれ以上差別(女性差別)に起因した事件はありません。差別そのものに関する理解が不足しているのではないでしょうか。女性差別が女性差別だと認められず、フェミサイドがフェミサイドだと認められないとしたら、それは今回の事件と同じかそれ以上の恐怖ではないかとわたしは思います。

 ヘイトクライムは更なるヘイトクライムを生む危険性を孕んでいます。また殺人件数そのものが低い日本では、命を奪われる女性の数も低水準ですが、被害者の女性比率で言えば、世界で最も高い水準だそうです(以下にソースを貼ります)。これは日本という国がずっと抱えてきた病巣の一つに思えてなりません。

 さて、わたしたちはこの状況に対して、何をするべきでしょうか。まずは差別を差別と認め、フェミサイドをフェミサイドと認めることから始めるべきでないでしょうか。(ふみなる)

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