黙って行動しろ
女性が始めた活動を男性が邪魔する構図
先日、ある女性が開いたオンライン・ミーティングに参加した時の出来事です。話題に応じてスピーカーが入れ替わるスタイルでしたが、ある男性は話題が変わってもずっと居続けて、次第に「では次はこれこれの話をしましょう」などと場を仕切る発言をするようになりました。聞いている時はなんとなく違和感を覚えただけでしたが、終盤になって主催の女性が「あなたはファシリテーターではありませんよ」とやんわり釘を刺すのを聞いて、「そうか」とやっと気づきました。女性はそのことがずっと気になっていて、いつ言おうか、言うべきかどうか、どういう口調で言おうか、と葛藤していたかもしれません。思い返すと男性の発言は(口調は終始丁寧でしたが)不愉快なものや、ずれたものばかりでした。
そうやって女性が自分の居場所を脅かされるケースは、身近にゴロゴロしているなと気付かされます。例えば人混みの中でわざわざ女性にだけぶつかってくる男性、女性の方が合格しづらい受験システム、賃金や雇用の格差など。
韓国のフェミニズム運動の原動力の一つとなった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」(2018年/チョ・ナムジュ著)には、弟を進学させるために低学歴で就職を余儀なくされる姉妹が登場しますが、韓国ではそういった男女間の教育格差は長らく当然とされてきたそうです(日本も似たようなものかもしれません)。ここでも女性の居場所が脅かされています。
今年(2021年)の2月、五輪組織委員会の森(元)会長による女性蔑視発言がありました。「わきまえた女性は○○するものだ」という規範の押し付けです。それに抗う形で「#わきまえない女」というハッシュタグが拡散され、数日後にはChoose Life Project(CLP)による「Don’t Be Silent #わきまえない女たち」という女性たちによるリレートークが生配信されました(同配信は2021年10月10日現在で約12万回視聴されており、注目の大きさを物語っています)。
私はこの配信を見て「#MeToo」に繋がるうねりを感じました。このまま日本でも女性蔑視・差別を問題視する声が高まっていくのではないか、と。しかし同じCLPの次なる企画「Don’t Be Silent #変わる男たち」が男性だけで女性差別問題を論じる形のものだったことから、「当事者が置き去りにされる」という趣旨の批判が集まって中止となりました。「女性が始めた活動を男性が邪魔する構図」がここでも再現されてしまったか……とガッカリしたのを覚えています(冒頭のケースもそれと同じ構図でしょう)。
もちろんこれは男性が積極的にかかわるべき問題ですが、「かかわり方」は深く考えなければなりません。構造における強者としての加害性、暴力性は常につきまとっていて、片時も離れてくれないからです。
黙って行動しろ
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年/ジョージ・ミラー監督)は「マッドマックス」シリーズの30年越しの続編です。核戦争後の荒廃した地上で繰り広げられる生存者どうしの争いを描く「男っぽい」シリーズですが、本作は趣が異なります。というのは「男性の支配から女性を解放しようとする女性と、ひたすらそれを助ける男性」の物語になっているからです。
荒廃した地にあって豊富な地下水と緑を蓄える岩山シタデルは、独裁者イモータン・ジョーの王国。彼は水や食糧を一元管理することで人々を支配しています。また若く健康な女性を「子産み女」として集め、自身の子を産ませる機械として監禁しています。物語は大隊長のフィリオサがこの5人の「子産み女」を連れて脱走するところから始まります。彼女らは無事、「緑の地」に辿り着くことができるのか。
「子産み女」のために戦うフィリオサ(映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」より)
本作の面白い点の一つは、主役のマックスが脇役に回っていることです。彼はイモータン・ジョーから逃れるため、たまたま遭遇したフィリオサたちと行動を共にします。彼女とともに戦い、「子産み女」たちを守りますが、必要がなければ口を開きません。主導権を取ろうとせず、あくまでサポートに徹します。相手が女性だからといって一方的に指示したり従わせたりもせず、「わきまえろ」などとも言いません。フィリオサの意向にできるだけ沿おうとし、最後にシタデルを奪還した際は、彼女に場を譲ります(場を奪うのでなく!)。
本作の考察で散々書かれていますが、マックスのこの姿勢は、フェミニズム運動にかかわる男性のあるべき姿を示唆しているかもしれません。私風に解釈すると「黙って行動しろ」というような。
また本作は「主体性を奪われ続けてきた女性が主体性を取り戻す物語」とも言えます。その背後にあるのは、女性の主体性を奪い続けてきた男(イモータン・ジョー)と、女性の主体性を復権させる男(マックス)の対比です。その意味でも「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は革新的な続編になったのではないかと思います。(ふみなる)
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